CINEFIL
清水は、映画専門チャンネル「シネフィル・イマジカ」の為に多くの楽曲を開局以来提供してきたが、今回その中から数曲をピックアップし、リアレンジを施して一つのアルバムに仕上げた。それぞれの楽曲は、全く違った様相をしているのだが、個性がぶつかり合い、また絡み合って、統合する。まさに清水お得意の捻りだ。
Recordings made between 1966 and 2000 for the Japanese film channel Cinefil Imagica, rearranged for this album. Acoustics and electronics combining to create a wide range of moods… with numerous cinematic references, this album takes the listener on a timeless musical journey, revealing Shimizu’s eclectic approach to music along the way.
クラシカル、現代音楽、エスノ、欧州風と様々なTV番組用音楽集
NTTドコモの“未来が実現したよ”ってな内容のTV-CM、最高に胸キュンしちゃうポップ曲が付いていたんだけど、それを作ったのが清水靖晃だと聞いて、ぼくは大層嬉しくなった。だってバッハのチェロ曲のサックスによる独自展開のようなことを押し進めつつ、一方ではそういうラヴリーな仕事にもしっかり係わっているんだもの!これは、そんな彼がパーフェクTVの映画専用チャンネル用に作り下ろした小物曲を集めたもの。先に触れたような笑顔のポップ曲はないが、自由自在、オールマイティ。クラシカルなものもあれば、欧州的頽廃ポップもあれば、現代音楽ふうなものやエスノ風味のものも。ただし、それはそのものではなく、必ず落とし穴というか含みというか、彼一流の洒落と言うか、批評と言いたくなるものが置かれている。そこがポイントね。
ADLIB 2001年 4月号
佐藤英輔
プレスリリース・ノート
清水靖晃の ふしぎなトリップ感 そして仮想映画体験
清水の持つ多国籍ゆえの無国籍といった一種不思議な存在感が、逆にさまざまな映画から触発された異国情緒の射影とあいまって、ふしぎなトリップ感を味わえる。旅の飛行機が空港に到着し、そのタラップを降りるときに、最初にふと感じられる「異国」の空気感、そういった言葉には言い尽くせぬリアリティと環境体験を、清水は、今回見事に想像上の快楽体験として昇華し、結晶化させたのだ。現実には存在しない仮想映画のためのサウンドトラック。現実と想像の世界を超えたその体験こそがまさにチャンネル「シネフィル・イマジカ」的こころみそのものでもあるのだ。
冒頭の「108Desires」は、このアルバムの態度を表明するトラックだ。1980年初頭にクラウス・ノミのヴァージョンで話題になった、原曲ヘンリー・パーセルの「コールド・ソング」に清水は、彼の考える百八つの煩悩を単語に当てはめた。食物、性、睡眠、お金……と無造作に並べられたこれらの一般的な単語は、一拍ずつ衝突してその意味を打ち消し合い、変形して新たな場所で合流しまた衝突する。このような運動を繰り返しながら意味不明になった意味達が、ゆっくりと螺旋状に上昇するというのがこの曲の筋書きになっているのだが、清水は、次に、このアルバム全体の展開も、それぞれの曲の差異を利用して「108Desires」と同じ手法で進行させるのである。
因みに最後の遠くから風に乗って聞こえてくるような「Nevotheeb(ベートーヴェンの弦楽四重奏第一番の楽譜を上下逆に演奏したもの)」は、映画の本編が終わってから出てくるスタッフのクレジットロールを想起させる。
Even though I occasionally find myself saying regretfully, “Oh dear, I watched a movie again today,” I know I really needn’t worry. For me, films are not for passive consumption; rather, they are a medium through which I can think while experiencing the true “me.”
‘With this album I have tried to emphasize how incredible music is as an “invisible” medium. The various songs on this album are crafted of the same matter as ordinary words-an attitude expressed in the opening track “108 Desires,” in which 108 words representing worldly passions are set to Henry Purcell’s “Cold Song” (made popular by Klaus Nomi’s version in 1980). Food, sex, sleep, money-ordinary words recited in no particular order-clash beat by beat, negate each other’s meaning, transform, merge on a new plane, and clash again. While repeating this exercise, meanings rendered meaningless slowly ascend in a spiral. I develop this plot in the album as a whole, which progresses by taking advantage of the disparities between pieces, the same technique used in “108 Desires.” Heard as if carried in on a distant breeze, the final track “Nevotheeb” (Beethoven’s String Quartet No. 1 played reversing the upper and lower parts of the score) is reminiscent of the credit roll appearing at the end of a movie.
プロデューサー: 清水靖晃、高橋龍一、友野久夫
作曲/編曲: 清水靖晃、「トルコ行進曲」 W.A. モーツァルト(6)、 J.S. バッハ(8、18)
「コールド・ソング」 H. パーセル(1)、「弦楽四重奏曲第1番ヘ長調」L.v. ベートーベン(23) を念頭において。
清水靖晃: テナーサキソフォン、クラリネット、ピアノ、ギター、キーボード
スージー・キム: ヴォーカル(1、9、15、16)
スコット・ブロウズ: ナレーション(4、5、7、14)
平野公崇: バリトンサキソフォン(12、18)
福間未沙: ヴォーカル(22)
レコーディング/ミキシング : 叶眞司、 清水靖晃
レコーディング/ミキシングスタジオ: パスウェイ、サブマリン(東京)
Produced by Yasuaki Shimizu, Hisao Tomono, Ryuichi Takahashi
Composed by Yasuaki Shimizu, W.A. Mozart (6), J.S. Bach (8, 18)
Based on “Cold Song” by H. Purcell (1), “String Quartet Op. 18 No. 1” by L.v. Beethoven (23)
Yasuaki Shimizu: tenor saxophone, clarinet, piano, guitar, keyboards
Suzi Kim: vocals (1, 9, 15, 16)
Scott Browes: narration (4, 5, 7, 14)
Masataka Hirano: baritone saxophone (12, 18)
Fukuma Missa: vocals (22)
Recorded/mixed by Shinji Kano at Pathway, Yasuaki Shimizu at Submarine(Tokyo)