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          YASUAKI SHIMIZU
          『月刊福祉』8月号|社会福祉(1998)

          つくるということ

          色々な国の町を目的なしにぶらぶら歩くのは楽しい。とりわけ日本の町を歩くのは愉快だ。プッと吹き出してしまうことがよくある。まるでシューレアリズム喜 劇を観ているようだ、ともいえるが、皆すこしも演技しているようには見えないあたり熟練された役者の演技を見るよりも数段面白い。これは皮肉ではないし、 まして偉そうに俯瞰的視点で言っているのでもない。本当にそう思うのだ。

          たとえば先日、東京・中野駅前のロータリーでのこと。空気の肌触りからいって季節は秋だったと思う。中野駅周辺はいつも騒々しいが、その日、夕暮に遠くか ら風に乗って聞こえてくる音の塊は僕の頭蓋骨の振動盤を快く響かせた。数百メートル離れたこの地点から聞こえるその音塊はよく煮込んだ本場のインドカレー のようで、それが何の音の組み合わせなのか判断出来ない。どうなってるのだろうという興味が自分を小走りにさせていた。

          人でごった返すロータリーに到着し、まず目についたのは踊りながらほくほく顔でハーモニカを演奏している太ったおじさんだった。髪はブロンドで顔は真っ 赤。何年も洗ってないように見えるよれよれのシャツ。そしてずれ落ちたズボンの上から大きな毛むくじゃらのおなかが覗いている。このおじさん、演奏してい ると言ってもメロディーなどは一切吹かず、ただ愉快なリズムに乗って息を吐いたり吸ったりしているだけのように聞こえた。足下に置いてあるチップ入れに は、たっぷりの硬貨と中には紙幣もチラっと見えたが、これは彼のハーモニカでのクラスター奏法に対する賛美ではなく、その横に置いてある臼汚れたぬいぐる みに対してであるように思えた。さて、このおじさんから20メートル程離れた所で、5人のインディオ達が民族衣装を身にまとい、激しい調子でギターを掻き 鳴らしながら、コンクリートが割れんばかりの力で足を打ちつけ、リズムをとっている。パンフルート奏者の力強いタンギングは回りの人々を吹き飛ばすかの勢 い。しかしインディオ達のすぐ横では、風俗店オープンのチラシを配るバニーガール姿のおねえさん達が、インディオ達に交戦を挑むかのように突き刺すような ソプラノの音域で客の呼び込みをしているのであった。そして、更にそれを仲介するかのように、献血を叫ぶ赤十字の職員がメガフォンで自慢のテノールを披露 する‥‥。何年か前、ベローナの野外円形劇場でヴェルディの「ドン・カルロ」を観劇したことがあるが、その時よりも感動した。この偶然が成したキャスティ ングは全く素晴らしいものだった。

          僕は音楽を作る仕事をしているのだが、そこで「作る」という意志の呪縛にいつも悩まされている。いくら味わい深いものを「作ろう」と思っても、その味わい 深いものは、意志とはかけ離れた次元にあるのだ。ひょっとしたら「作ろう」と思ったということ自体が一番よい作品であるのかもしれない。

          いま、僕も含めて人々の欲望は更に加速度を上げ、新しい変化という至上の幽霊に触ろうと必死である。強い意志があれば味わい深いものを手に入れられる…?  一方で、原因から結果へという論理の上で考える習慣は、まだ根強く残っているにしても、そろそろ崩壊寸前のようにもみえるのだが。至上の幽霊など何処に もいないということを人々は薄々感じとっているのではないか?

          ともあれ、中野駅前ロータリーでのオペラを観劇したあと、「主役はやはりハーモニカのおじさんだな」と勝手に決めて、僕はまたプッと吹き出してしまったのだった。

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